A. 医師:井門 ゆかり
薬は、7~8割の方には進行を遅らせたり、調子を良くする効果があるので、使える状況なのであれば、使っていただきたい。ただ、薬によって少しずつ特徴が違うため、出来るだけその人に合った薬を選んで使うようにしている。この薬は合わないなと思い、途中で切り替えることもあるので、調整していくことが大事。
また、喘息がある、心臓が悪いといった場合は、副作用でコリンエステラーゼ阻害薬が使いにくい場合があるので、メマンチンが使えるようであれば、そちらを使っている。ただ、薬を途中で止めてしまうと、モデル的に示されているように、認知機能が急速に下がるということが多々あるので、何かしら認知症の薬を継続していただいた方が認知機能は保たれるかと思う。目に見えて改善することは無くても、進行が押さえられているということも効果であると思うので、使えるものであれば使っていただいた方が良い。
実際に、ご本人だけでなく、ご家族も「使った方が良いと言われたけど、使う必要があるのかと思い半年ほど様子を見ていた」という方もいらっしゃったが、MMSEが22点から18点に下がってしまったことで使い始めた。
いつ止めるかであるが、途中でBPSDが悪くなってしまったことがある。コリンエステラーゼ阻害薬は活性化させる作用があるが、それが却って悪いかもしれないという時は、薬を減らしたり休んだりすることもある。症状が進んで、服用も難しくなった場合や、進行を遅らせることも期待できない場合は、中止することもあるが、中止したことで落ち着かなくなってしまうこともある。中止したとしても、その後の経過を見ていくことも必要であるし、使えるものであれば継続していった方が良いと思う。
A. 薬剤師:中島 啓介
服薬するための工夫としては、従来からあるように一包化やお薬カレンダー、食卓に薬を置いていただく、タイミングを見て電話・訪問をする、デイサービスの時に服用していただく方法などがある。
お薬カレンダーの場合は、飲み終えた殻をポケットに戻してもらい、飲み忘れた場合はそのまま残していただくようにしている。そうすることで、いつ飲み忘れたか分かりやすくなる。服用を嫌がって飲まない場合は、処方医の先生に相談し、お薬を飲む回数を減らしたり、飲む量を減らしたりということもしている。また、「私が飲んでみたら調子が良くなったから、一緒にお薬を飲んでみませんか」というシナリオを行うことで上手くいくこともあった。どうしても強く拒否される場合は、食べ物や飲み物に混ぜることもある。私たち薬剤師に期待されることの1つとして、適切な剤形選択をして処方医に提案するということもある。そして、認知症のお薬については、幸いにも様々な剤形がある。パッチ剤やドライシロップ、口腔内崩壊錠、ゼリー剤もあるので、適正な剤形選択も服用アドヒアランスを向上させると思っている。薬剤師は、そういった仕事も行っている。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
私たち介護支援専門員は、投薬介助の前に、家に訪問させていただいた際に服薬確認をしている。その時の言葉がけとして、「お薬ちゃんと飲めていますか?」と聞くと、言い出しにくいということを聞いたことがある。そこで、「飲みにくい薬ないですか?」と確認してみてはどうかと薬剤師の方に提案してもらった。訪問する時には、「お薬ちゃんと飲めていますか」と責めるような聞き方ではなく、「飲みにくい薬はないかね?」と利用者が答えやすい質問に変える工夫を行っている。
投薬方法については、認知症の方はたくさんの薬があり、飲むタイミングが書かれているものの、その通りに飲めていないということが多々ある。薬剤師や訪問介護、訪問看護と協力しながら、どうすれば飲めるのか試している。
先日、地域(福山市)で行われた研修会で、薬剤師の方が、ケアマネジャーの取り組みとして、要支援の方で薬の飲み忘れが出てきた利用者に対して、服薬支援ロボを活用して娘さんの負担が減ったという事例を紹介していた。使ったことがない方法は手が出しにくいこともあるが、そういった成功事例を聞くと「やってみよう」という気になるので、もう少しこの服薬支援ロボの取り組みについて、薬剤師会からお伝えいただきたい。
A. 薬剤師:中島 啓介
時間になったら、お薬が出てくるようになっている。また、録音機能があるので、「お薬の時間です」と言って出てくる。
A. 医師:井門 ゆかり
似たような形で、スマートスピーカーで娘さんが「お薬の時間だよ、お薬飲んでね」という声を録音して、飲めるようになったという方もいらっしゃった。最近のIT技術を活用されると良いと思う。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
ここ数年の猛暑によって脱水になったり、(こちらは)暑いと思っていても、在宅で過ごされている高齢者の方々は「全然暑くない」と言う。着ている服も季節に合ったものではなく、30度を超える家の中で過ごしている方がたくさんいらっしゃるので、冬場・夏場は介護支援専門員を悩ませる1つの要因である。訪問した時に何度も「エアコン付けてるから消さないでね」と伝えても、やはり切ってしまう。電気代が高い、寒いと言って付けてくれない。付けてくれる人もいるが、「暖房」になってしまっているなど、スイッチの切り替えができていないことがある。
対策については悩んでいるところであるが、先程の服薬支援ロボではないが「見守りカメラ」の活用について他の介護支援専門員から聞いたこともある。ヘルパーなど他の訪問回数を増やして、少しでも涼しい環境を作ることも方法の1つ。また、冷房がついていると思うと、どうしても消してしまうので、一部屋だけを冷やすのでは無く、本人が気づかない部屋のエアコンをつけ、風通しを良くすることで家の中全体の温度を下げる工夫を行う。
A. 看護師:遠藤 泰子
エアコン問題は難しく、困っている家も多い。リモコンを本人の手の届かない所に置こうと試しても、上手に見つけてこられる。やはり、家に入る職種で協力しながらスイッチを入れるなど、さりげなく温度調整をしているのが実情。また、デジタルの室温計を置いて、「今○度だから暑いですよね。エアコンつけましょうか。」などと目に見えるものを示しながら声かけをするようにしている。どちらにしても協力しながらになるので、ここでも多職種連携が必要になると考えている。
A. 歯科医師:半澤 泰紀
何を食べているのか、どのように口腔ケアしているのかなど、食形態や食事の回数、食事全般に関する情報は欲しい。
認知症の方でも歯磨きを自分でされる方もいれば、全くしない方もいるため、自身でされるのか、介助者がしているのか、ご家族がされているのか、実際に訪問すれば分かる事ではあるが、事前に教えていただけるとありがたい。
<追加>
食事中にむせがあるのか、ないのかについても、摂食嚥下の情報として知りたいところである。
A. 医師:井門 ゆかり
取れない。簡単なスクリーニングとして使っていただければと思う。福島県喜多方市では、開業医でスクリーニングをした場合、喜多方市がドクターに対して500円支払っていると聞いているが、診療報酬が付いているわけではないので、請求はできない。
A. 歯科医師:半澤 泰紀
歯科開業医だからこそ気づく認知症の初期症状がある。
・予約日や時間を間違えて来られるなどの受診行動
・受付において、診察券やおつりを返しているのに、返してもらっていないと言う行動が見られる
・夏なのに厚手の服を着ているなど服装を含めた見た目
・ちぐはぐな会話
・以前はしっかり歯があったにもかかわらず、数年後に来院された時には歯が無くなっている、あるいは歯が残っていても歯周病で歯茎が下がり虫歯が出てきているなど、急激な口の中の変化がみられる。
このような口の中の状況変化は、歯科医だからこそ気づくところであり、特にかかりつけで長く通われている方については、口の中の状況の変化はすぐに気づくので、疑わしいと分かる。
A. 薬剤師:中島 啓介
約束より早く薬を取りに来られたり、様々な薬や健康食品なども置いているため、同じ物を大量購入する方もいる。ただ、薬局では気づける範囲は限られている。服薬指導の時間は大体3分程度であり、1か月に1回の通院でも、1年間に40分と短いため、多職種の意見を参考にしている。
A. 看護師:遠藤 泰子
同じことを繰り返し話す、しょっちゅう物を無くされて同じ物を何度も作り直すなど、訪問看護が入ってからも進行していくことはよくある。そうなると家族が困ってしまうので、そこの支援も必要となってくる。
なかなか本人には言えないことなので、主治医に伝えて薬の変更を検討していただく、そういったことが起きていないか薬局に聞いてみるなど、情報を共有し、どのように支えていくか考えている。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
まずは地域包括支援センターや行政の福祉の窓口などから相談されると思うが、もともと関わっている利用者の中から認知症が少しずつ発症してきたので受診に繋げたいという相談もある。そういった時には、「認知症の先生に診てもらいましょう」と言うと拒否的になる場合もあるので、「健康診断に行きましょう」や「治る物忘れもあるから、早めに先生に診てもらいましょう」という声かけで、物忘れ外来や認知症の専門の先生に繋げる場合もある。
A. 薬剤師:中島 啓介
BPSDの治療は少量ずつ調整していくため、時間がかかる。家族や介護職員の方は即効性を求めるがちになるが、しんどいのは本人も同じであり、負担もかかる。過鎮静を起こしたり、パーキンソン症状を起こして転倒、骨折をしてもいけない。
もし、理解していただけるようであれば、長い目で見ていただけたらと思う。
A. 医師:井門 ゆかり
切羽詰まった状態で相談に来られるので、「何とかしてあげないと」と強めの薬にすると副作用が出やすくなり骨折してしまうこともある。
早めに相談していただく方が対応の余地がある。複雑になってしまうと、外来で手に負えず精神科病院に入院して薬剤調整になってくる。
外来で調整する時には、抗不安薬は認知症の患者の状況を悪くすることがあり、あまり推奨されていないので、その点を気をつけていただく必要がある。また、あれこれ薬を調整して手に負えない…となるよりも、早い段階で専門医に相談いただく方が、外来での調整が効くかと思う。
もともとの体調、身体面の問題、環境の変化など、BPSDを悪化させている原因が別にあり、そちらを改善することで落ち着くこともあるので、薬ではなく、原因を考えることが大事である。特に、レビー小体型は薬物の副作用が出やすいので、少し使ったつもりでも寝たきりになってしまうこともある。できれば、かかりつけの医師が薬を調整するよりも、早めに専門医に相談していただく方が良いかと思う。
A. 看護師:遠藤 泰子
BPSDになるような変化が無かったか多職種で良く考えている。家族はそう思っていなかったとしても、本人は言ってしまったことが気になったり、リモコンを隠してしまったこと(Q4参照)がきっかけで行動がおかしくなってしまうなど、様々なきっかけがある。薬も大事だが、その前に変化を起こす行動がなかったか、色々な職種の方と相談し、できるだけ元の生活に戻してあげることを考えている。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
ご家族の方は、本人にとっての楽しみや、今までやってきたことを続けてあげたい、どこかに連れて行ってあげたいなど、色々なことを頑張ってくださるが、本人にとっては、非日常とまでは言わないが普段とは違う環境・人になる。
利用者の中に、毎年、家族がお墓参りに連れて行ってあげている方がいるが、お水を汲んでくるよう頼んでも汲むことができず、頼んだ奥様の方が「今まで出来ていたのに、なぜ出来ないのか。こんなことも出来なくなったのか。」とストレスになってしまうことがある。利用者本人も、イライラを感じ取って不穏になったり、夜落ち着かなくなったりすることがある。イベント事全てがいけないということはないが、利用者の今の状態を見ながら、生活を穏やかに過ごすにはどのような事が必要なのか、多職種で確認することが必要かと思う。
A. 看護師:遠藤 泰子
本人も出来なくなったことに気づいて傷ついていたり、やりたくても出来ないことに漠然とした不安を抱えた方はたくさんいる。自宅に伺った時に、ここが出来なくなったのではないかと感じたら、先に何かをするのではなく、「一緒にしましょうか?」と声をかけて一緒に行動している。そうすることで、どこまで能力的に可能なのかアセスメントにも繋がる。得た情報は多職種で共有し、ここから先は支援が必要、ここまでは出来るというところを明確にし、本人の自立支援を妨げないように関わっている。
そのことは家族にも伝えておかなければ、良かれと思ってしたことが本人のプライドを傷つけてしまうこともあるので、家族と共有して支援することを心がけている。
A. 歯科医師:半澤 泰紀
唇、歯の周りに粘液が固まって痂皮ができてしまっている方を、家族が綺麗にしてほしいと連れてこられる場合があるが、いきなり口を触ると認知症の方は拒否をされるし、受け入れてもらえない。そのため、いきなり口の中を触るのではなく、肩や手のひらなど身体の中心から離れた末端から、「桜が咲く季節になりましたね」など声かけをしながら、徐々に口元に近づいていく。近づいて行く際にも、乾いた口に乾いたものを持って行くと痛いので、グローブを水やお茶で濡らす。マッサージをすると唾液も出てくるので、唇や頬をマッサージし、口の中が少し潤ってきてから専用のブラシを使うようにしている。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
外に出て行くことがある。アルツハイマー認知症で、一緒に住んでいる兄弟のことも分からない状態であったが、鍵をかけていても出て行ってしまい、兄弟から「介護保険を適用させてほしい」と相談があった。そういった状況になるまで介護認定も受けず、何のサービスも受けること無く、兄弟で頑張っていた。
私が関わった際に専門医の診察に行ったが、「薬を飲んでも変わらないので必要ない。」と言われた。ケアで何とかしなければならないと思ったが、夜になると出て行き、家族が探しに行くという状態であった。次第に朝も出て行くようになってしまい、兄弟に何時頃に出て行くのか情報をもらい、その時間について行くようにした。
それにより、どういった所に行くのか確認をしていたが、やはりいなくなってしまい、警察や地域包括支援センターなど協力をしてもらわなければならない状態になってしまった。兄弟に聞くと、「いつもデイケアの方向に歩いて行くので、今日もそのはずだ」と言われたが、1時間経ってもデイケアには到着されず、普段とは違う道に行ったと思われた。結局その方は山の方に行っており、寒い中、1日山で過ごされた。翌日、ボロボロの状態で下山されているところを近所の方が見つけてくれた。対応例と言いつつも、医師から「ここまで来たら薬はいらないよ」と言われることもあり、どうすれば良いのか。
A. 医師:井門 ゆかり
私の患者にも同じような方がいた。副作用とのバランスもあるが、向精神薬などの薬を使う。また、家族の中でも家の鍵を二重にしたり、GPSを付けて居場所がわかるようにしている。
一緒に歩くというのも有用で、車道を歩いていて危ないと分かることもある。また、徘徊SOSネットワークのシールなどで発見しやすくこともある。
ただ、どうしてもいなくなってしまうようであれば、一時的に入院すると生活パターンが変わり、家に戻っても徘徊しなくなることもあるので、少しの間でも入院や施設への入所を考えて良いかもしれない。
一度だけ外来中に徘徊していなくなってしまった方がおり、警察に捜索してもらったところ、目の前の公園にいた。発見まで2時間かかり大変だった。それ以後、より慎重に気をつけている。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
今までケアマネジャーをしている中でいなくなったのは、二人いる。二人とも発見されたので良かったが、その人の生活リズムや1週間の生活リズムなど細かく把握するのは、ケアマネだけでは難しい。やはり関わっている家族や(入っていれば)介護サービスなど、一緒に把握しておくと色々な検討ができるので大事。
A. 医師:井門 ゆかり
スライドにもあるが、当日見つからないと死亡例が増えてしまう。すぐ近くでも溝にはまって溺れていたり、海や山だと見つかりづらい。また、公共交通機関で遠くまで行ってしまうこともある。車に乗って徘徊して名古屋まで行き、ガソリンが無くなって路肩に停まっているところを発見されるなど、予想外のところに行っていることもあった。
軽度だから徘徊はしないということはないので、どの段階でも徘徊には注意が必要。いなくなってしまったら、すぐに警察に頼み、すぐに見つけることが大事。
A. 介護支援専門員:岡崎 美保
帰ってくるかもしれないから警察はいいです、と家族は言われるが、すぐに警察に連絡しましょうと伝えることも対策の1つかと思う。
A. 医師:井門 ゆかり
外来にかかっていた方で、骨折してリハビリ病院に移ってリハビリをされていた方がいるが、元気がなく、リハビリにもならないと言われた。薬を調べると、もともと使っていた薬よりも強い向精神薬や睡眠薬が使われており、先方の先生と相談して減らしていき、リハビリをする元気が戻った方もいる。
ロゼレムとクエチアピンを使ってせん妄予防をするということはあると思うが、鎮静が効き過ぎると褥瘡ができて一年以上治らないなど困ることもあるので、ケースによって適切に…としか言えないところである。
A. 司会:魚谷 啓
鎮静を主体に考えるということではなく、信頼出来る方が配慮しながら過ごす、その際にクエチアピンなど使いながらしのいでいく。過鎮静になったら、様子を見ながら薬を減らしていく、ということでしょうか。